電動アシスト自転車の開発PJ(9)
「軽量高性能モータの技術動向調査」
今回のプロジェクトは電動アシスト用に重量1Kg以内で所定の性能(クランク軸で40Nm以上@100rpm、ホイール軸で30Nm@200rpm)を発揮するモータ型式(ギヤ型式も含む)を模索するものであるが、技術の方向性を定めるため、ここで一旦中休みして、世界的に最新のモータ技術の動向がどうなっているのか調査することにした。
右図は海外の論文からの引用であるが、軽量モータ開発の動向を大まかに掴むことが出来る。通常のモータは概ね0.2Kw/Kgのレベルであり、現状の電動アシスト自転車のモータもほぼこの付近に位置する。その一つ上のクラスがEV用のモータであり、ほぼ2.0Kw/Kgの付近にある。(プリウス、リーフのモータもこのレベルである)EVのモータはいわゆる永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)が殆どデファクト的に主流となっている。(初期のテスラは例外的に誘導モータを使っていたが・・・これは偉大な先駆者テスラに敬意を表するためか?)現時点ではEV用モータが軽量高性能モータとしては最先端を走っており、各社とも種々の新技術を投入して高効率化、軽量化を競っている。自動車用モータの上を行くのが航空機用モータであり、SiemensのSPシリーズモータは5Kw/Kgを達成したモータとして有名である。(かなりの高エネルギー密度のモータであるが、火災による墜落事故などで完全実用化には至っていない?)ただし、航空機用としてはこれでもまだ重過ぎるとの評価であり、NASAは究極的に13Kw/Kgのレベルに達しないと航空機用としては使えないと言っている。現在、このNASAの目標に向かって、種々の検討が進んでいるが、未だこの目標に到達するコンセプトが固まっていないのが現状である。ちなみにドローン用のモータはEVモータとSiemens モータの中間に位置する。
右図は各種モータの重量当たりのトルクを比較したものである。ここでも電動アシスト用モータは最下位のレベルに位置し、5Nm/Kg以下程度と、ソーラーカー用のモータなみである。EV用モータは10Nm/Kg弱のレベルであり、結構健闘している。航空用ではSiemens の最新版であるSP200Dは30Nm/Kgの高トルクを誇っている。このSiemens モータを上回るのが、最近日立が発表したSUV用のインホイールモータであり、40Nm/Kgを達成したと言っている。日本電産のインホイールモータも内臓ギヤ付きではあるが49Nm/Kgと優秀である。Siemens、日立の30~40Nm/Kgのレベルは最新技術の粋を集めたものであり、通常技術で設計する電動アシスト用モータとしては、軸直結方式で10Nm/Kg前後が精一杯であることが推測できる。(重量当たりのトルクはスケールダウンの法則が適用できず、出力の小さなモータはどしても重量当たりのトルクは小さくなってしまう。)
以上が全体の流れであるが、以下に個々の技術の詳細を見て行きたい。
1)ソーラーカー用インホイールモータ
ソーラーカー、エコラン等では16インチのホイールにモータを内蔵して直接駆動する方式が一般に採用されている。ホンダ、東海大のソーラーカーも同様の方式である。出力は1800W程度であるが、空気抵抗を極限まで減らすので時速100Km/h以上で走行できる。日本勢はミツバ製のアウターロータ式ブラシレスDCモータを採用している例が多い。海外では学生の研究対象として、究極の高効率が狙えるAxial Flux Coreless Motorが選択されるケースもある。下図はSciro製のモータの例である。瞬時の大トルク発生は苦手であるが、巡行速度を淡々と効率よく走行するのには最適なモータである。出力は0.16Kw/Kgレベル、トルクは1.5Nm/Kg(最大4.6Nm/Kg)程度である。自転車への転用を考えた場合、トルクが若干不足すると思われるが選択肢のひとつである。
2)EV用モータ
各社が色々なモータをラインアップしているが、日本電産のシリーズを下図に示す。モータのコイル冷却が一般的になりつつある。
3)ドローン用モータ
空を飛び回るだけあって、瞬発力があり軽い。ただし大電流(20~30A)を短時間で消費する大食いである。バッテリーもドローン用を使うと割り切れば、農薬散布用の大型モータを60~70%負荷で使う選択肢もあるかも知れない。ただし効率は80%前後と高くない。種類は色々選べて安い。一例として下図にT-Motor社の大型モータの特性を示す。
4)Siemens航空用モータ産業革命時の電力産業の創始者のひとりとしての面子にかけて、航空機モータの一番乗りを目指している。大電流を流すコイルの冷却を種々工夫していると思われるが、モータの具体的な構造は不明である。
5)NASAの研究動向
13Kw/Kgの目標に向けて種々のモータ型式について初期検討(FS)が始まった段階である。最も軽く出来そうなAxial Flux Coreless Motorでも目標達成は難しいと、現時点では評価されている。いずれにしても軽量化最優先の観点から、コアレス+ハルバッハ配列永久磁石の組み合わせで工夫してゆくことになりそうである。
6)EVインホイールモータ
EVのインホイールモータは皆の夢であるが、ばね下荷重の問題から中々実用化されない。最近日立が発表したインホイールモータは40Nm/Kg(60Kw@24Kg)を達成したとされ、画期的である。基本構成はハルバッハ配列の永久磁石と高密度扁平コイルであるが詳細は不明。ギヤなしでこの性能であればSiemensを上回ることになる。(SUVであればこの重さも許容範囲か?)
7)今後の検討方針について
以上のモータ技術の動向調査を踏まえて、インホイールモータに関しては、ソーラーカーが採用し、NASAの航空機用モータの有力候補になっている、「Axial Flux Coreless Motor」を中心に検討を進めて行くことにした。高性能の磁石片は市販品で簡単に入手できるし、コアレスの巻線も何とか自作出来そうである。関係する論文はたくさん出ているので、基本設計の計算も何とかなりそう。次回以降で具体的に計画してゆく。
今回色々なモータが出てきたが、前回ミッドシップパワーユニットで採用の有力候補となったマブチの「IS-94BZC」(830g)の重量当たりの性能を整理すると次の通りとなる。
定格出力:380W ・・・0.46Kw/Kg ピーク出力:680W ・・・0.82Kw/Kg
定格トルク:1.0Nm ・・・1.2Nm/Kg ピークトルク:2.0Nm・・・2.4Nm/Kg
(次回に続く)
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