電動アシスト自転車の開発PJ(16)

 「中国製ハブモータの組み込みテスト」

最近Aliexpressのサイトを覗いていたら、中国のAIKEMA社の重量1.431Kgの前輪ハブモータ(AKM75SX)の広告が目に入った。トルクは30Nmと控え目であるが、何よりハブモータとしては最軽量である点が気に入り、どの程度の性能であるか試す目的で購入した。早速手持ちのCannondaleに組み込んで走行テストしたので報告する。

下図は、コンバージョンを完成した状態の写真である。もともと本プロジェクトで改造のベース車となっていたCannondaleにAKM75SXのハブモータを組み込み、バッテリーは手持ちのアシスタ用の25V/8.7Ah(200Wh相当)を流用した。完成重量は12.5Kgとなった。残念ながらバッテリーが1.868Kgと重く11Kg台には届かなかったが、世界でも最軽量e-bikeの領域に入る。ハブモータは型番の数値が示すとおり、モータ外径が75mmと小さく、ハブのスポーク穴径も81/99mm(左右非対称)と小ぶりである。外観上はハブダイナモを少し大きくした程度で目立たない。(バッテリーだけが不格好で目立つ!)




1)組み立て工作作業(コンバージョン)の経緯
中国のショップに注文すると、2週間ほどで
パッケージが届いた。今回注文したキットは
ハブモータ単体とコントロール装置/ハーネ
ス類がセットになっており、送料・税金込み
で35,000円ほどであった。ケーブル、ハーネスはすべてワンタッチの防水仕様のコネクターで接続できるようになっており、説明書は何もついていなかったが、予備知識なしでも間違いようがないシステムとなっている。ハブモータのナットとワッシャが入っていなかったのでクレームすると、すぐに追加で送ってくれた。スマートなケーブルシステム、クレーム処理の迅速さは中国メーカとは思えないぐらい洗練されていると感じた。





モータの仕様は36V/250Wで定格回転数は201rpm(大口径リム対応)と328rpm(小口径リム対応)の2種類がある。(減速比が14.2と20.1の2種類となっている)今回は迷わず高速型の328rpmを選んだ。(高速までのアシストを狙ったため)
またモータの設計電圧は36Vであるが、もちろん25Vでも使用可能であり、その場合、定格回転数は電圧比で低下し、約230rpm(=328X0.7)と予想される。丁度700Cのリムで30Km/h付近までカバーされる計算となる。


作業はまずリム、スポーク、ハブモータの組み立てから始めたが、これは通常の自転車組み立て作業の一環である。リムは軽量で剛性が高そうな台湾製のALEXRIMS Pro28(32穴)を選択し、6本組イタリアンで組んだ。昔乍らの手組ホイールの楽しい作業である。(このハブモータは左右でハブのスポーク穴のピッチ径が異なっており、スポーク長さも計算上、左右で2mmほど差がでる。別々にスポークを購入するのも面倒なので今回は左右の中間長さを一括購入して組んだが、別に不都合はなかった)Cannondaleのオリジナルのホイールは726gのZONDA(含クイックリリース )が付いていたので、完成したハブモータとホイールの全重量(2213g)との差(追加重量)は1487gとなった。

①ハブモータホイール重量の内訳
 リム          479g
 スポーク        191g
 ニップル          35g
 モータ         1431g
 ナット/ワッシャー    77g
                
            合計     2213g         
 
②ZONDAホイール重量; 726g

③追加重量;   ①-②=1487g


ハブモータのシャフトは12mm径のネジを10mm幅の平行面に削って、これをホークの先端の爪に嵌め込む構造であるが、ロードバイクのフォーク先端の爪の幅は9mmである。爪を広げるか、平行面を削り込むかの選択であるが、今回はシャフトの平行面を9mmまで削り込む選択をした。(強度的には問題ないはず)またワッシャーは、ホーク先端の爪にはまり込みトルクを分担する構造になっており、このはまり込みでトルクを受け止めることは可能と考え、トルクアームは不要と判断した。(フォークの爪に嵌め込むため、ワッシャに少し追加加工が必要であった)

このキットは、クランクの回転を感知してモータが作動するシステムであるため、ペダルの回転を感知する(PAS)センサーをクランクに取り付ける必要がある。キットの中に12個の磁石が付いた円盤とセンサーが入っているだけで、例によって取りつけ方法について何の説明もない。BB30のFSAクランクに色々工夫しながら取り付けた。(これは結構苦労した)

この様なコンバージョンキットの場合、
バッテリーの取り付けは悩むところ
であるが、今回の場合、アシスタの
25V/8.7Ahのバッテリーケースが、元々ついていたボトルホルダーにきちきち嵌ることが判った。固定用のベルトは必要であるが、結構納まりは良い。コントロールボックスもボトルホルダーのネジ穴に取りけられた。キットに付属していたワイア、ハーネス類は長すぎて処置に困ったが、バッテリの下部にぐるぐる巻きにして何とか収めた。(いくら余裕を持たしたと言っても長すぎる。)

またハブモータの消費電力をモニターするため、アシスタで使っていた電流、電圧計を今回もハンドル部に取り付けた。
キットに入っていたメインスイッチとコントロールパネルは電流・電圧計の右にある小さな液晶である。これはモータのアシストレベルの調節と速度計、トリップメータなど、簡易ながらサイクルコンピュータの機能を持つ。
傑作なのは、このコントロールパネルの初期設定で最大アシスト速度が設定できるようになっている点で、何と初期設定は70Km/hであった。今回は少し控え目(?)に40Km/hに設定したが、もちろんこれはモータの最高回転数で自動的に決まって来る。
以上、多少苦労したが無事コンバージョン完成である。重量の内訳を下記に示す。
 
  Cannondale本体            8.3Kg
  ハブモータ/ホイール追加重量     1.487Kg
      バッテリー(25V/8.7Ah)        1.868Kg
  コントローラ/ハーネス/附属部品   0.867Kg
                   合計            12.522Kg

このキットでは馬鹿丁寧に、かなり余分の長さのハーネスが付いていたが、これらの重さも馬鹿にならない。今回はハーネスを切断するのは面倒なのでそのまま使ったが、本当はハーネス類の長さの最適化で200~300gは軽量化出来そうである。
またキットに入っていた、STOPセンサー付きブレーキレバー、スロットルは不要と考え今回は取り付けなかった。

今回、実質2週間程度の作業であったが、色々試行錯誤しながら、何とか完成することができた。大人(老人)の頭の体操としては適度な難易度であり、日ごろ自転車の整備に慣れている人にとっては難しくない作業である。それにしても作業指示書が一切ない組み立てキットには驚かされたが、これが中国流なのか?(シマノの丁寧な多言語の説明書と大違いである)ただし製品そのものは予想以上によく出来ていると感じた。(中国おそるべしである)

2)試乗の印象
さていよいよ期待の試乗であるが、第一印象は「素晴らしい」の一言である。小さなモータなのであまり期待していなかったが、結構ぐいぐい引っ張ってくれる。一番の収穫はバッテリーが25V仕様であるにもかかわらず、30Km/h以上でも駆動力が衰えない点である。さすがに急な坂道には弱いが、高速の巡航(30Km/h以上)に強いと言う印象である。音も静かである。
コントロールパネルでのアシストレベル調節は0-5まで5段階あるが、これはモータの電流(入力)制御であると推定される。それぞれのレベルでの入力電力、電流値は概略次の通りである。
  レベル5   370W  13.5A
  レベル4   195W   7A
  レベル3   140W   5A
  レベル2     80W   3A
  レベル1     50W   1.8A
テスト走行の結果、通常の走行ではレベル3で十分であり、急坂時のみレベル5にすればよいことが判った。(レベル5は力持ちであるが相当の電力大食いであるので注意が必要)
アシスタでいつもサイクリングしていたコース(11Km)を完成したコンバージョンe-bike
で走ってみたが、レベル3の設定で、アシスト感はアシスタ並みに十分あり、高速巡航(30Km/h以上)は今回のコンバージョンの方が優れていることが判った。肝心の電費は0.25Km/Whと出た。これは、アシスタのデータと同等である。使用感と言い、また電費と言いアシスタ同等かそれ以上という評価である。しかも重量はほぼ半分である。 

今回の試作・試運転の目的は30Nmトルクの前輪ハブモータの基本的な特性を把握することであったが、得られた結論は下記となる。
①通常のサイクリング的な使用では、この要目で全く不便は感じない。
②前輪駆動も運転上、違和感は感じられない。
③レベル3の設定で通常走行が問題なく出来るということは、ハブモータの要目として
 140W/10Nm程度あれば十分であるとの結論である。これは本稿10回で試算したアキシ
 アルフラックスコアレスモータの要目性能と偶然にもほぼ一致する。(ただし非常時は3倍
 電流で3倍トルクを発生する。)
④AIKEMA製のこのハブモータはかなり高性能であることは判ったが、あとは耐久性の確認
 が残る。海外の投稿では頻繁に使用すると数週間でナイロン製の減速ギヤが磨滅すると書
 いてある。その意味でもレベル3程度の低負荷で使用するのが正解なのかも知れない。

(次回に続く)


            







             



 


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