電動アシスト自転車の開発PJ(20)
「世界最軽量のe-Bike」
最近、F-1レーシングカーやスポーツカーで有名な英国のLOTUS社から、Type136と称する超軽量e-Bikeが発表された。LOTUS社はオリンピックで活躍するような競技用自転車も作っており、超最先端の技術で自転車を設計・製造するメーカとしても知られている。
このType136は、モナコを拠点とするHPS社の「Watt Assist Pro Motor」のバッテリー/モータシステムを採用しており重量は9.8Kgと公表されている。ついに10Kgを切るe-Bikeが出てきたことになる。ただし値段は370万円!!と超高級車である。
Type136 公表データ;
重量; 9.8Kg バッテリー;193Wh/1.2Kg
走行可能時間; 3時間
価格; 370万円
HPS社製モータ仕様;
Watt Assist Pro Motor
重量=300g
定格出力=200W
最大出力=220W
最大トルク=20Nm
モータ構造は推測になるが、海外の紹介記事などを参考にすると、シートチューーブ内にモータを配置して直交型のハイポイドギヤでクランク軸を駆動する型式らしい。これは今は販売を中止したVIVAX ASSISTのシステムに似ている。VIVAX ASSISTもモータ出力は200Wであった。
VIVAX ASSISTの主な仕様 定格出力; 200W
モータ重量; 750g
バッテリー; 5.5Ah/30V (60分) 900g
8.25Ah/30V(90分) 1300g
システム重量;1.8Kg(60分) 2.2Kg(90分)
このVIVAX ASSISTはシートチューブの内径が31.6㎜、30.9㎜であれば、通常の自転車に気づかれることなしに装着可能であり、実際のレースでも使われた形跡が疑われている。その隠匿的特徴から別名「メカニカルドーピング」とも言われている。このシステムはモータ出力軸に多くのギヤ(遊星ギヤ+ベベルギヤ)を介して動力を伝えることから伝達効率が悪く、モータ出力200Wに対して、クランク軸では110Wまで落ちると言われている。
ロータスに電動アシストシステムを提供したHPS社はロータス Type136より2年前(2021年)に「Watt Assist Pro Motor」を搭載した自社ブランドのe-Bike「Domestique」を発表している。(一種のデモ機であった)
このe-Bikeは重量8.5Kgと公表されているが、テストレポートなどを読むと、乗車できる状態で9.5Kg程度と書かれている。「Watt Assist Pro Motor」の本当の重量については正式な公表値がないが、雑誌レポート等、色々なデータから総合的に考えて下記数値が一番真実に近いのではないか。(LOTUS社の発表300gはモータ単体重量と思われる)
モータ重量(含むギヤ); 780g
バッテリー; 193Wh(1.2Kg)
85Wh(720g)
従って、LOTUS Type136の重量内訳は次の通りと推定され、それぞれ妥当な数値に納まる。
モータ; 0.78Kg
バッテリー(193Wh); 1.2Kg
自転車本体; 7.82Kg
合計 9.8Kg
LOTUSのType136は193Whのバッテリーで3時間走行可能としているが、これは平均64Wの電気入力で走行することになる。先に紹介したAKM75ののハブモータでの走行経験からは、電気入力ベースで80~100Wぐらいないと頼りになるアシスト力を感じないので、64W入力のアシストはかなり弱く感じるのではないか。HPS社は上り坂で軽くアシストすることを狙っていると説明している。
この思想に似たパワーユニットとして(3)回で紹介したSpecializedのSL1.1があるが、それでも35Nmのトルク(250W)でアシストするよう設計されている。Specializedはこのパワーユニットの特性を「Two X You」(ツーバイユー)と称して人力と同じ1:1の力でアシストすると説明していた。HPS社の思想はそれを下回る力でアシストと言うことになる。軽さを重視したかなり割り切った設計思想である。本当にこれに400万円近く払うのかな?
・・・ギネス記録・・・
色々調査したら、2019年にe-Bikeの軽量世界記録がギネス記録に登録されている。
重量は6.872Kgでこれは驚異的である。
開発者はドイツの Dr. Dennis Freiburgであり、氏はe-Bikeの軽量化の追及で博士号をとったらしい。バッテリーはギネスの規定を満たすため137Whの容量のもの(赤色のボトル形状)を搭載しており、モータは外径50㎜のドローン用のモータを採用して、モータの外周をタイヤに押し付けて駆動する方式をとっている。(オーソドックスで且つクラシカルな方式である)このモータは最大600Wの出力を発揮できるが、25Km/h程度の走行このFreigurg氏のe-Bikeの重量の内訳は概略次の通りと推察される。
モータユニット; 500g
バッテリー; 850g
自転車本体; 5522g
合計 6872g
この重量配分から判るように、4Kg台の軽量自転車を用意すれば、ギネス記録を破れる可能性がある。
またこの方式のモータとホイールの減速比は13.44(=672/50)となり、30Km/h(237rpm)で走行中のモータ回転数は3185rpmとなる。ドローン用モータの部分負荷での使い方として妥当な範囲に入る。かなり泥臭い方式であるが、簡便で軽量と言う点でもっと詳細詰める価値がありそうである。
今回、LOTUS社のType136、HPS社の「Watt Assist Pro Motor」による10Kgの大台を切るe-Bikeや,6.872Kgという驚異的なギネス記録を紹介したが、世界でe-Bikeの軽量化を目指す同志がいることがわかり意を強くした。またいずれのシステムもモータ+バッテリーシステムで重量は2.0Kgを切っており、本プロジェクトの目標値2.0Kgはそれ程非現実的でないことが証明された。(すでに先を越された)
Watt Assist Pro Motor; 0.78+1.2=1.98Kg (193Wh 18650 10S2P)
Freiburg; 0.5+0.85=1.35Kg (137Wh 18650 7S2P)
(次回に続く)
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